||| 疾走 バイオベンチャー がん制圧に手がかり第1部プロテオミクス新薬開発につながる優れた先端技術を持つバイオベンチャーが日本で育ち始めた。病気関連のたんぱく質を構造解析するプロテオミクス、情報技術(IT)とバイオが融合したバイオインフォマティクス(生命情報工学)、創薬技術など手がける領域は幅広い。世界に通用する実力を持つ企業が続々と現れている。 「がんの転移にかかわるたんぱく質の働きを突き止めた」 たんぱく質解析受託を主力とするアプロサイエンス(徳島県鳴門市)の真島英司社長(当時取締役)は六月中旬、早稲田大学国際会議場の壇上で自らの研究成果を発表した。医学関連の学会の一つ、日本脂質生化学研究会で注目を集めた研究だった。 転移にかかわるたんぱく質は「リゾホスホリバーゼD」。患者の体内でがん細胞に自由な移動を促し、転移を引き起こすことがわかった。 研究していたのは人間の血液から血球などを取り除いた血しょうの成分の一種。自らの手で改良を加えた研究機器で、徳島大学の研究者と共同で分析を進めた。 研究開発も統括する真島社長は「がんの転移のしやすさを調べる診断薬や、転移そのものを防ぐ新薬を開発できる可能性がある」と語る。徳島大学と共同でそのたんぱく質の用途に関する特許を日本で出願。取得後は製薬会社などに使用権を供与する一方、抗がん剤などの共同開発を進めることが今後の課題になる。 がんの転移と並ぶ重要テーマはがんの増殖。最近、がん細胞の増殖にかかわるたんぱく質を見つけることに成功し、その働きを抑制する化合物の合成を目指す。 別のアプローチも模索する。自然界のなかから機能がわかっていないたんぱく質を選び出し、その機能を解明して医薬品や診断薬につなげるという研究だ。こうした様々な手法から発見した医薬品の「種」を多数持ち、ビジネスを拡大していく青写真を描いている。 研究の基盤になるのはたんぱく質の構造や働きを明らかにする分析技術だ。真島社長は鹿児島大学大学院理学研究科を卒業後、大塚製薬工場でたんぱく質の研究を中心に担当。九〇年に退職し、金敦祚会長が設立したアプロサイエンスに主任研究員として入社した。 たんぱく質の解析を受託する同社の生命線として磨きをかけてきたのが二つの解析手法だ。一つは質量の解析で、たんぱく質の重さの変化を利用して通常のたんぱく質か病気が原因で細胞の中にできたたんぱく質かを判定できる。そしてたんぱく質を構成するアミノ酸の並び方を一つ一つ調べる配列解析だ。 医薬品の研究では膨大な数の試料を調べる必要がある。質量解析で病気の発症や進行にかかわるたんぱく質を絞り込み、アミノ酸配列解析で詳しく分析すれば開発効率を大幅に高められる。両種の解析手法をもとに活用できる企業は世界でも少ないという。 解析受託や研究の体制整備も着々と進む。十月末には小鳴門海峡に近い鳴門複合産業団地に約二億円をかけた新社屋が完成する。研究スペースも従来の二倍以上の二百六十坪に拡大。新たに導入する超高感度アミノ酸配列自動分析装置などの調整に余念がない。 昨年度赤字になった経常を軌道に乗せて、二〇〇四年四月期に経常利益一億円を確保、同年に株式公開するのが当面の目標。「研究開発には熱を入れてきたが、せっかくの技術をもっと広く使ってもらう努力が足りない」。七月一日に就任したばかりの真島社長にとって、営業などの足元を固めることも課題だ。 2002年7月22日(月)日経産業新聞 |